カートリッジスロットのオーディオ入力はどのくらいのレベルで入れるのが適切か

カートリッジスロットからオーディオ信号を入れる場合、どういう信号を入れるのが適切か、というのをDatapackの仕様から読み取ろうという話です。

MSXの仕様としては、Datapackに
49 SUNDIN サウンド入力信号(-5dBm)
という記載があります。

ではこの-5dBmとはなんぞ、という話になります。以下、単純に「dBm」の説明になります。

・dBmとは
「dBm」とは、「d」「B」「m」にそれぞれの意味があります。

「d」:デシ。小学校で習ったdL(デシリットル)のデシです。MSXなんて触るようなおっさんにはdℓのようにLが筆記体で書かれてるほうがなじみ深いかもしれません。
まあ日常生活においてデシリットルなんて使った覚えありませんし、dB(デシベル)のほうがまだ馴染みある気がしますが、つまり1/10を表す記号です。キロが1000倍、ミリが1/1000などと同類のSI接頭語です。

「B」:ベル。電話の伝送路の計算に使われたのが始まりらしいです。比率を常用対数で表したものです。

「m」:ミリ。正しくはmW(ミリワット)ですがdBmとして使う場合はWは省略するようです。

なので読み方は「デシベルミリワット」のような気がしますが、「ディービーエム」とそのまま読まれるみたいです。

さて、つまり、dBmとはざっくりと「ワットの比率」であるということがわかります。ではこれをどう解釈すると入力信号のレベルになるのでしょうか。

というところで、もう一度MSXの規格を確認しますと、「-5dBm」と記載されています。
「-5dBm」という記載から入力可能電力は求められますが、これを実際の電圧値(VrmsやVpp)へ変換するには、入力インピーダンス条件が必要になります。
つまり、「-5dBm」という仕様だけでは、実際の電圧レベルや回路条件は一意に定まりません。
実際の電圧レベルを求めるには、本来は想定インピーダンス条件とセットで扱う必要がありますが、Datapackの回路図にもこのあたりの情報はありません。

dBmという単位自体にはインピーダンスの規定はありませんが、音声回線でdBm表記を行う場合は、600Ω系を基準負荷として扱う慣例があるようです(電話回線由来らしい)。 というわけでここは仕様として突っ込みどころですが、600Ωとして計算します。
※データパックは内容に関する質問は文書で受け付けているらしいですが、さすがにもう時効でしょう。他にも今更になって仕様の解釈について小一時間問いただしたいところはいくつかありますが、残念ながら入手当時の自分ではそこまで気づけませんでした。

入力インピーダンスとは何かというと、(超ざっくり言うと)入力抵抗のことです。つまり、(アンプを入力抵抗無限大の理想アンプとすると)以下のような入力回路モデルとなります。


さて、これに対して-5dBmの信号を入力するというとどのような計算になるのでしょうか。
それを計算するためには「dBmが比率表現」ということですので、まず基準値が必要になりますが、dBmの場合、基準値は1mWと決まっています。
600Ωの抵抗に1mWの電力を与えるということは、オームの法則より、
電圧=電流×600Ω
電圧×電流=1mW
となりますので、式変形し、電圧=√0.6≒0.775Vとなります。
これが基準値となります。ちなみに音声は交流信号なので、正確には0.775Vrmsと記載します。(Vrmsについては後述)

この値に対し、-5dBの比率を計算します。
dBは本来、電力比を表す単位であり、通常は10logで定義されます。
ただし、同一インピーダンス条件で電圧比を扱う場合は、電力が電圧の二乗に比例するため、20logで表現できます。
この場合、20dBで電圧10倍となります。
つまり、計算式としては単純に、
dB=20log(電圧比)
です。なので、電圧が10倍であれば、20log(10)=20dBとなり、100倍であれば20log(100)=40dBとなります。
逆に、dBから電圧比を求めるのであれば、
比率=10^(dB/20)
となります。
20dBであれば、10^(20/20)=10倍、
6dBであれば、10^(6/20)≒2倍、となります。

ではここで求めたい-5dBmについて考えます。そのまま上記式に代入し、
10^(-5/20)≒0.56倍
となります。基準値は0.775Vrmsですので、
0.775×0.56≒0.44Vrms
となります。なので、(インピーダンス600Ωの入力に)-5dBmの信号を入れろ、というのは、
(インピーダンス600Ωの入力に)0.44Vrmsの信号を入力しろ、と同義となります。

さて、Vrmsですが、直流信号であればそのまま電圧値として考えて問題ありませんが、音声信号は上記でも書きました通り交流信号となりますので、電圧の実効値となります。

電圧の実効値、という考え方ですが、単純にサイン波を想定した場合、ピーク値はVrmsの√2倍となります。

身近なイメージを例に出すと、商用電源100Vは、100Vrmsです。
図示するとこうです

この場合、±両側に141V振れますので、ピークtoピーク(Vpp)では282Vppとなります。

この考えを先ほどの0.44Vrmsに当てはめると、ピークtoピークはVrmsを2√2倍し、約1.24Vppとなります。

つまり、-5dBm(=0.44Vrms@600Ω)をピークtoピーク電圧へ換算すると、矩形波では約0.88Vpp、サイン波では約1.24Vppとなります。

ちなみに、-5dBmという規格が実効値基準なのかピーク値基準なのかなどの詳細が仕様に明記されていないため、実際にどのような測定条件を前提としているかは仕様からは読み取れません。ここも突っ込みどころになります。

さて、入力インピーダンスが(現代の主流のライン入力などにくらべ)比較的低いので、インピーダンスマッチングを考える必要があります。
インピーダンスマッチングをする場合は、古い音声回線など、dBm表記や電話回線由来の慣例を前提とするなら、入力インピーダンスと出力インピーダンスは同じで設計するものなので、ここでは出力も600Ωであるべきとします(ここも仕様の突っ込みどころ)。
※基本的に現代のラインレベルのマッチングは、出力インピーダンスを低く(理想は0)、入力インピーダンスを高く(理想は無限大)するのが民生であれば普通ですが、仕様としてdBmで記載があるので現代の一般的なマッチングとは異なります。



R1が出力インピーダンス、R2が入力インピーダンスです。入出力アンプにも内部抵抗は存在しますが、今は理論値(内部抵抗0)としています。実際にはアンプの内部抵抗も含めて外見えには600Ωとなるように設計します。

この場合、R1=R2=600Ωとした場合であれば、SUNDINを1.24Vppとするためには、VIは2.28Vppであるべきとなります。

なので、正しい仕様としては、-5dBmを守ってSUNDINに入力した場合に、MSXのオーディオライン出力からはラインレベルの仕様の値で出力されるべき、ということになります。
もちろんMSXには内蔵音源もあるので、それらを合成してトータルとしての出力がラインレベルの仕様の範囲内であるべきということになります。
それを考慮すると、内蔵音源とSUNDINの合成比率が仮に決まっていたとしたら、多スロット機は内蔵音源の出力レベルは(全スロット合計+内蔵音源の合計がラインレベルのMAXになるため、相対的に)1スロット機より小さくなるといういまいちな仕様になります。
とはいえ、少なくとも上記で仮定したインピーダンス条件であれば、上記で算出したVppの音声信号を入力する限りは、音割れなどは発生しないはずであり、また、それを超えた場合はそれが保証されないということだと思います。

実運用としては、おそらく音源カートリッジとして数が出てる、かつ、最大振幅の理論値がわかっているSCCを参考にするのがよいかなと思います。
また、FM-PACも数が出てはいますが、そもそもYM2413の出力の仕様が不明確ですので、SCCのほうが参考にしやすいかなと思います。

ここで参考としてSCCの実装を見てみます。
SCCは11bitのR2RラダーDACで構成されていて、理論上最大振幅は40~1235となります(参考→SCCの仕様)。
DACは5Vで駆動されるため、出力は0~5V(厳密にいえば5V-1LSB)となりますが、40~1235に限定すると、DAC出力開放時の電圧で、(5/2048*40)~(5/2048*1235)=0.0977V~3.02Vで、1R=500Ωなので出力インピーダンス500Ωに近似できるので、入出力を結合して考えると


となり、アンプの入力は0.0533V~1.64Vで(AC結合前提であれば)約1.59Vppになります。実際にはR2R DACを駆動する5V出力にも内部抵抗があるので、もっと電圧は低くなるはずで、また、全chが同時に同位相で最大振幅付近になる可能性が低いことも考慮すると、当たらずとも遠からずな感じです。


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裕之  
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