マクロビジョンの構造
そもそもどうして誤認するの?

ここで言うマクロビジョンとは、macrovision社という会社が開発(?)した、アナログビデオテープ(つまりVHS)の違法コピー保護機構の事です。
ちなみに、ここの会社は、この様な誤認の原因となる中途半端なコピーガードや、PC用のゲームなどで使用されている「セーフディスク」と呼ばれる、相性によってはマスターディスクすら認識できない欠陥の様なコピープロテクト機構、最近よく見かける「コピーコントロールCD」とよばれる、コンパクトディスク規格を逸脱した円盤で、動作保証なしの上に返品不可など人をバカにした事を言ってる技術を商用利用するふざけた会社です。

ちなみに、当然、違法コピーがなくなれば、ソフト供給元はわざわざライセンス料を支払ってまでプロテクトを掛ける必要が無くなります。
まあ、コピーできなければ売り上げが伸びるのか、というと、そうでも無いと思いますけどね。

では、実際、マクロビジョン方式コピーガードとはどのような構造になっているのでしょうか。
その為には、映像信号の概略について知る必要がありますので、そちらを先に解説します。
今までよりも更に複雑になるので、あきらめるなら今のうちです。

走査線の動作については、説明しました。
ここでは、画面上の左上の座標を(0,0)として、右方向にX座標、下方向にY座標が増加するとします。
普通の数学的な2次元座標系とは上下が逆さまになってますが、こっちの方が考えやすいので逆にします。というか、普通、PC使ってる人ならばY座標は下方向に増加で普通なんですが。
とすると、X座標、Y座標はそれぞれどのような動作をするのでしょうか。
今までの説明からは、以下のような動作が想像できると思います。図中の「1H」は、走査線1本を書き終える時間です。
X軸とY軸での時間軸のスケールは異なります。また、振幅も、NTSCの縦横比が3:4の為、Y軸の振幅はX軸の3/4となります。


このような波形に基づき、走査線の点を移動させることで、走査を実現させています。
ちなみに、厳密に言うとY軸の図は階段状になるはずですが、実際には直線となっていますので、やや若干ですが走査線は右下に傾く形となります。
しかし、画面の歪みなどで無視できるくらいの微量です。

実際、テレビではこの波形を作成しているのですが、このような波形を正確に作成することは回路上難しく、以下のような波形となっています。


先ほどの波形と比べると、図の上から下に戻るのにもいくらか時間がかかっています。
この、上から下へ戻る時間には、「帰線期間」という名前があり、この図で言うX軸(画面の左右方向)が、上から下(画面の右から左)へ戻る期間を、 「水平帰線期間」といい、Y軸(画面の上下方向)が、上から下(画面の下から上)へ戻る期間を「垂直帰線期間」と呼びます。
もちろん、その間に画像が表示されては困りますので、「ブランキング信号」とよばれる信号があり、その信号が有効な期間(ブランキング期間)は、画像が表示されないようになっています。
ですので、水平帰線期間を「水平ブランキング期間」、垂直帰線期間を「垂直ブランキング期間」とも言います。

そして、注目して欲しい点は、垂直帰線期間も含めて262Hとなっているという事です。
つまり、垂直帰線期間中も水平走査(X軸方向の走査)は通常通り行われているという事です。
しかし、垂直帰線期間中は「垂直ブランキング信号」により、画像は表示されません。
ちなみに、この「垂直ブランキング期間」は、水平走査20本分と規格で決められています。
1フレームにすると40本分ですね。走査線の本数は525本ですので、525−40=485本の有効走査線があるという事になります。
しかし、実際には485本全てにきちんと画像が乗っていることは、表示範囲の関係でまずあり得ません。
PCモニターでのキャプチャで、縦方向が480というのは、5本程キャプチャできてない事になりますが、実際にテレビ画面の表示される走査線の本数はもっと少ないため、問題は有りません。

また、走査線の本数の数え方にもきまりがあり、垂直ブランキング期間の一番初めの走査線が1本目となり、奇数フィールドの有効画像の1本目が走査線の20本目となります。
そして、偶数フレームの垂直ブランキング間の1番はじめの走査線が263本目となるのですが、走査線本数が525本と奇数ですので、263本目の真ん中から垂直ブランキング期間が開始されます。そして、偶数フレームの有効画像の1本目が283本目の真ん中からとなります。


ここで、やっと本題に若干ふれる事ができます。
マクロビジョンのコピーガード信号というのは、走査線の10〜17本目、273〜280本目に存在します。
つまり、どちらも垂直ブランキング期間中ですので、その信号が画像として表示される事はありません。
逆に、表示されないのでその部分をバッサリと切ってしまっても問題はありません。コピーガードキャンセラーなどがこのような構造となっています。
ちなみに、やや余談ですが、DVDなどでマクロビジョンと共に採用されている「カラーバースト式ガード」は、水平ブランキング期間に存在します。こちらについてはマクロビジョン方式とは別なので触れません。


では、マクロビジョンはここにどのような信号を乗せているのでしょうか。
デジタル的な考え方の出来る人なら、コピーガードのフラグがここにあるんだ、と思うでしょうが、そのような単純な物ではなくもう少し複雑です。
映像信号には、100%白という規格が(当然ですが)あります。100%白という事ですので、それが規格上当然一番明るい色となります。
ただし、100%白とは言っても、アナログですのでデジタル的に黒が0,白が255などという様に上限を物理的に超えれないわけではありません。
例えば、電球を思い浮かべてください。100Vの規格の電球をコンセントに繋ぐと、その電球の100%の明るさだとします。では、そこに100V以上の電圧を掛けるとどうなるでしょう。さらに明るく光りますよね(やりすぎると電球が切れてしまいますが)。
それと同様な事が映像でも起こりえます。もし、100%白以上に明るい信号が入ってきた場合、それを表示させると、画面が白く飽和してしまします。
ビデオカメラなどを光源に向けたりしても同じような現象がおきますよね。

そして、マクロビジョンの信号というのは、その「規格以上に明るい白」がこの期間に記録されています。
それも、かなり規格以上に明るい白です。
あと、こちらの概念はちょっと難しいのですが、「規格以下に暗い黒」と言うのも記録されています。
これらの信号が交互に並んでいます。
それらを画面に表示させた写真を用意してみました。

この写真では、垂直ブランキング期間がちょうど画面中央あたりに表示されています。
赤丸内が白黒が縞模様となっています。これがマクロビジョン信号の正体です。

では、この信号がどのようにビデオデッキに作用しているのでしょうか。
ビデオデッキは、この信号を意図的に検出して、録画を停止するような機構は持っていません。
そのかわり、ほとんどのビデオデッキには、AGC(オートゲインコントロール)と呼ばれる、入力された画面の明るさを最適に調整して録画する機能があります。
たとえば、暗い画面ならやや明るくして保存し、明るすぎる映像は暗くして保存します。
その機能があるため、マクロビジョン信号として「規格以上にかなり明るい白」と「暗い黒」が入ってくると、その信号黒〜白の幅を規格に合わせて画面全体を暗くしてしまします。
そのため録画できても画面が暗い、という現象が発生します。
また、実際にはマクロビジョンのかかっている物をダビングすると明るさが暗くなるだけではなく、明るさがふらつきます。それはマクロビジョン信号が定期的に無くなったり出てきたりするからです。
また、画像を暗くすると、一緒に制御用の同期信号なども小さくなってしまい、その為、同期がとれなくなってしまうという事もあります。
このような障害をもたらすため、ダビングしても鑑賞に堪える物にはなりません。


では、そもそもMTVではなぜこれを誤認するのでしょうか。

MTV1000には、AGCはありません。その為、純粋にコピーガードの影響を受けることはありません。
しかし、検出機構はあり、特定の走査線にある程度の明るさの信号が入ってくると、コピーガードとして検出しているようです。
どの程度の明るさから検出するのかは詳しく調べないと解りませんが、とりあえず、規格内の白でも検出することは有るようです。

また、垂直ブランキング期間には、マクロビジョン信号の他、クローズドキャプション(字幕)や、放送局管理用コードなどが一緒に入っている場合が多く、放送波を受信した場合はほとんどなんらかの信号が入っています。
更に、ビデオデッキの構造上、垂直ブランキング期間にA/Bヘッドの切り替えが行われる事があるため、ノイズの発生も非常に多くなっています。
このため、特定の走査線に明るい信号が入っていた場合にコピーガードとする、とした場合、誤認の可能性は非常に高くなります。
逆に、AGCの場合は即座に効果が出るわけでは無いため、一瞬ノイズが入ったり、規格値よりやや明るい程度のノイズが続いた程度では、何の影響も有りません。
クローズドキャプションなどの信号は大抵は100%白を使用するため、特にAGCには何の影響もありません。

AGCを意図的に誤動作させてコピーガードを有効にするのか、それともマクロビジョン信号らしき物を検出するのかという大きな違いがビデオデッキとMTVにはあるため、その根本的な構造の違いから検出基準も異なってきます。

その為、MTVなどのAGC非搭載のデジタル機器ではマクロビジョンの誤検出という物がどうしてもでてきてしまうのです。

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裕之  
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